【建築士解説】車椅子で生活できるバリアフリーの新築住宅|間取りの工夫と注意点
「将来を考えて車椅子にも対応できる家にしたい」と考える方も多いでしょう。
しかし、気を付けなくてはいけない点は段差をなくすだけではありません。
そこで、今回は車椅子の方もそうでない方も暮らしやすい住まいにするためのポイントを、建築士が解説します。
マイホームの新築やリノベーションを後悔したくない方、ずっと住める家を建てたい方は、ぜひ参考にしてください。
● 車椅子に乗る人が快適に過ごせる家にするためには、関連寸法を知っておくことが重要です。
● 私たち“蓮見工務店 + 蓮見建築設計事務所”は、「手作りの家」をモットーに、お客様のご要望を叶えた住宅を数多く手がけてきた実績があります。
目次
- 車椅子でも暮らせるバリアフリー住宅ポイント
- 車椅子での生活に欠かせない寸法|通路幅・段差・傾斜
- バリアフリー住宅の新築に利用できる補助金・税控除
- ずっと快適に暮らせる住まいの新築・リノベーションは実績のある工務店・設計事務所に
- 蓮見工務店の家づくりへの想い
車椅子でも暮らせるバリアフリー住宅ポイント
年齢問わず、誰しも車椅子に乗る生活になる可能性はあります。
そのため、住まいは万が一に備えた間取り・設えにしておきたいですよね。
ここで思い浮かぶのが「バリアフリー住宅」です。
では、車椅子の方もご家族も暮らしやすい家にするためのポイントを1つずつ見てみましょう。
- 平屋・1階中心の生活空間に
- 被介護者のプライバシー確保
- 被介護者を孤立させないリビング配置
- 介護者のプライバシー確保
- 誰でも使いやすいユニバーサルデザインの水廻り
- 車椅子の人が乗り降りしやすいゆとりある駐車スペース
- 段差・素材に配慮した玄関ポーチと室内玄関
- 行き止まりの少ない回遊動線を意識した間取り
- フラット床仕様の引き込み戸
- 高耐久性・高耐キズ性を備えた内装仕上げ材
- 直射日光が入りづらい窓計画・庇計画
- 温度ムラを抑える高気密・高断熱性
- 2方向以上の避難経路確保
平屋・1階中心の生活空間に
車椅子の方が生活するエリアは1階を中心にレイアウトしましょう。
そのため、最近は老後を見越して平屋住宅を選ぶ方が増えています。
平屋でしたら全ての住空間が1階にあるので問題ありませんが、2階建て以上の場合は、1階にどのような部屋を配置するかがポイントです。
階段昇降機やホームエレベーターを設置する方法もありますが、これは既存住宅を車椅子対応にする場合に用いるのが基本と考えておいた方が良いでしょう。
なぜなら、車椅子に乗った人が一日に何度も上下階を行き来するのは、ご本人にとっても介護者にとってもかなりの負担になるからです。
土地の広さによっては、生活にかかわる全ての部屋を1階に配置することが難しいかもしれません。
できるだけ上下階の移動回数を減らせることを第一優先にしましょう。
被介護者のプライバシー確保
介護住宅で見落とされがちなのが、「被介護者のプライバシー」です。
介護において、プライバシーの尊重はとても重要で、被介護者の尊厳を守るためにも配慮が欠かせません。
また、被介護者の自立性を維持する上でも重要とされています。(参考:介護保険法第1条)
被介護者の行動が自然と目に入ったり音が聞こえてくる配置もあまりおすすめできません。
介護の効率を重視することは間違いではありませんが、間取りを検討する際は、被介護者のプライバシーが守られるかどうかも必ずチェックしましょう。
被介護者を孤立させないリビング配置
被介護者のプライバシーを守ることは重要ですが、合わせて「孤立させない」ことも意識しましょう。
被介護者の生活サポートは、衣食住の介助や安全性の確保、体の機能低下を防ぐことだけではありません。
精神面でのケアも必要です。
一人きりにさせてしまったり特別視してしまったりすると、被介護者の不安や悲哀、不信感につながります。
そのため、車椅子に乗っている人自らの意思で、家族とのコミュニケーションに参加できる動線を確保しましょう。
ベットや椅子からできるだけ直線的であるのが理想です。
介護者のプライバシー確保
介護を必要とする人がいるご家庭で問題になりがちなのが「介護疲れ」です。
厚生労働省の調べによると、同居している家族を介護している人のうち、介護にストレスや疲れを感じている方は、「68.9%」にも上ります。(参考:厚生労働省|平成28年 国民生活基礎調査の概況)
介護疲れを少しでも和らげるためには、「身体的負担」「精神的負担」のどちらかを取り除く必要があります。
そのためには、介護者が自分の時間を過ごせる場所を作ったり、被介護者と物理的な距離を保つことも重要です。
核家族化によって遠距離介護も増えているため、泊まりで介護する際に休める部屋を作っておくのも良いでしょう。
介護者用個室の位置を検討する際は、一日の介護ルーティーンを見直し、どのくらい家の中を行き来するのかをイメージしましょう。
誰でも使いやすいユニバーサルデザインの水廻り
車椅子対応の家と聞くと、バリアフリーをイメージしますよね。
確かにそれは間違いではありませんが、最近は「障害の有無や年齢、体格差問わず、誰でも住みやすい家=ユニバーサルデザイン」の考え方が主流です。
「バリアフリー」
障害のある人が社会生活をしていく上で障壁(バリア)となるものを除去するという意味で、段差等の物理的障壁の除去をいうことが多いが、より広く障害者の社会参加を困難にしている社会的、制度的、心理的なすべての障壁の除去という意味でも用いられる。
(引用:総務省|バリアフリーとユニバーサルデザイン)
「ユニバーサルデザイン」
バリアフリーは、障害によりもたらされるバリア(障壁)に対処するとの考え方であるのに対し、ユニバーサルデザインはあらかじめ、障害の有無、年齢、性別、人種等にかかわらず多様な人々が利用しやすいよう都市や生活環境をデザインする考え方。
(引用:総務省|バリアフリーとユニバーサルデザイン)
生活に欠かせないキッチン・トイレ・洗面・バスルームは、介護者・被介護者どちらも使いますよね。
そのため、ぜひユニバーサルデザインを意識してください。
設備機器メーカー各社は、UD(ユニバーサルデザイン)商品を数多く販売しています。(参考:TOTO|住まいのUD、LIXIL|住まいのUDアイデア、Panasonic|配慮別UD商品事例)
ユニバーサルデザインに特化した住宅にしたい方は、ぜひ建築会社へ相談してください。
車椅子の人が乗り降りしやすいゆとりある駐車スペース
車椅子に乗る方の中には、ご自身で運転する方もいますよね。
そうでなくても、通院や買い物、気晴らしで家族と車で出かける方も多いはずです。
そこで配慮しなくてはいけないのが、「駐車スペース」です。
車椅子に乗っている人が車を乗り降りするためには、通常よりも広いスペースが必要となります。
(駐車スペース) | 直列駐車 | 並列駐車 |
---|---|---|
一般的な駐車スペース | 間口:車幅+左右90cm以上 奥行:車長+1.5m以上 | 間口:車長×2以上 奥行:車幅+90cm以上 |
車椅子の人が乗り降りできる駐車スペース | 間口:車幅+左右140cm (車を寄せると片側から車椅子の介助乗降可能) 奥行:車長+1.5m以上 | 間口:車長×2以上 (ただし、車椅子が車の前後を回り込む場合は+1m程必要) 奥行:車幅+1.5m以上 (車椅子が敷地内で通れる幅を確保) |
車を降りてからそのまま車椅子の向きを変えずにまっすぐ玄関までアクセスできる動線がベストです。
段差・素材に配慮した玄関ポーチと室内玄関
車椅子対応の玄関ポーチや室内玄関は、段差がない、もしくは段差が小さいことが基本ですが、気をつける点はそれだけではありません。
玄関ポーチの床仕上げもとても重要です。
砂利敷きや石畳、ぬかるみですと、車輪がひっかりやすくスムーズに移動できないので注意しましょう。
逆に、大理石など表面に光沢がありツルツルしている床材ですと、歩行者が滑りやすく、車椅子の車輪跡も付きやすいため、あまりおすすめしません。
そのため、モルタル仕上げや滑り止め防止付き外床用タイルが一般的です。
玄関ポーチに排水溝を設置する場合は、グレーチング(蓋)選びにも注意してください。
格子状の幅によっては、車輪がはまってしまう可能性があります。
また、常設のスロープは車椅子移動以外の人にはあまり使いやすくありません。
そのため、室内玄関は仮設スロープを設置できるように広めの土間にしておくのがおすすめです。
行き止まりの少ない回遊動線を意識した間取り
車椅子は行き止まりでの転回が難しいため、できるだけ室内は回遊性のある間取りにしましょう。
写真のように、ダイニングテーブルの周りもぐるりと一周できるようにしておくと、車椅子を自走させる時も介助する時も、動線が混戦しません。
車椅子に乗っている方がアクセスでしやすい収納を、通り道の途中に配置するのもおすすめです。
ただし、通路幅を広げると他のスペースを圧迫するため、ホールのようにして多目的に使えるようにしたり、収納を設置して誰でも出し入れしやすいようにしたりするなど、“+α”の機能があるスペースにするのがおすすめです。
フラット床仕様の引き込み戸
車椅子対応の住宅に欠かせないのが「引き戸」です。
開きドアですと、車椅子に乗りながら開け閉めできませんし、開けたままにすると扉が邪魔になります。
一方、引き戸、特に扉が壁の中に収まる「引き込み戸」でしたら、開けっ放しにしても通行の邪魔になりませんし、車椅子の人でも自ら開閉が可能です。
床面にレールのない「上吊りタイプ」の扉なら、床がフルフラットになります。
これらの引き戸は、車椅子の人だけではなく、力が入りづらい高齢者や小さなお子さんにも優しいため、まさにユニバーサルデザイン商品です。
高耐久性・高耐キズ性を備えた内装仕上げ材
床材は車椅子の摩耗に耐えられるもの、壁材はぶつかってもキズが付きにくいものを選びましょう。
畳やCF(クッションフロア)は、すぐに表面が傷んで破れてしまいます。
耐キズコーティングされている車椅子対応フローリング材もいいですが、最近人気なのが「無垢フローリング材」です。
車椅子でキズは付きますが、突板フローリングや挽板フローリングよりも補修しやすいからです。
壁は耐キズ性のあるビニールクロスや、壁の下半分だけに貼る「腰壁パネル」を採用する事例もあります。
内装材次第で、機能性とデザイン性は両立できます。
耐久性・耐キズ性・耐汚性と意匠性のバランスがいい材料を、建築会社と選ぶことが重要です。
直射日光が入りづらい窓計画・庇計画
車椅子に乗っている人は、カーテンの開け閉めが大変です。
そのため、車椅子に乗っている方が日中いる場所は、できるだけ直射日光が当たりにくい場所に配置しましょう。
ただし、一日中照明を付けないと薄暗い部屋も良くありません。
直射日光ではなく、間接的に陽の光が差し込む位置が理想的です。
また、太陽高度が高い夏場の日射を防ぎ、逆に高度の低い冬場の日射を取り入れられる「庇計画」もじっくり検討しましょう。
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環境配慮型“パッシブデザイン住宅”の建てる前に知っておくべき注意点
温度ムラを抑える高気密・高断熱性
介護を必要とする人が住む家には、「空気・温度のバリアフリー」も欠かせません。
こまめに冷暖房機器を操作しなくても良いように、高気密・高断熱な仕様にするのがおすすめです。
高気密高断熱住宅にすることで、真夏や真冬でも外気温の影響を受けにくくなり、一年中安定した室温を保てます。
また、最近増えている「室内熱中症対策」としても効果的です。
そのため、車椅子に乗っている人だけではなく、ご家族みなさんが健康的に暮らすためにも、気密性断熱性はとても重要です。
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2方向以上の避難経路確保
車椅子に乗っている人は、急に移動できません。
また、少しの障害でも通行できなくなります。
そのため、万が一に備えて、2方向以上の避難経路を作っておきましょう。
避難ルートが複数あると火災や地震の時にも安心ですし、救助もしやすくなります。
経路上に車椅子の通行の妨げになるものがないか、必要な通路幅を確保できているかを確認しましょう。
車椅子での生活に欠かせない寸法|通路幅・段差・傾斜
車椅子での生活を実現させたい場合は、家の“寸法”にもこだわりましょう。
特によく通る廊下や水回り、物をよく出し入れする収納などについては、本当に車椅子に乗った人でも不便はないか、しっかり確認してください。
その際、以下の数字を知っておくと、参考になります。
「車椅子が出入りできる開口幅」 | 80cm以上 |
「車椅子が通過しやすい通路幅」 | 90cm以上 |
「車椅子と人がすれ違える通路幅」 | 120cm以上 |
「車椅子が転回できるスペース」 | 直径150cm以上 |
「車椅子(自走)で楽に上れる傾斜角度」 | 5° (30cmの段差を上るのに3.6m必要) |
「車椅子(介助)で楽に上れる傾斜角度」 | 10° (30cmの段差を上るのに1.8m必要) |
「車椅子(自走)で超えられる段差高さ」 | 10mm以下 |
「車椅子に乗った人の手が届く範囲」 | 左右:車椅子中心から半径70〜80cm 前:車椅子背もたれから60cm程度まで |
「車椅子に乗った人の手が届く高さ」 | 床から150cm程度 |
(参考:国土交通省|基本寸法)
「車椅子が通れるように廊下は広めに」というのは間違いではありませんが、広くしすぎると他のスペースに支障が出てしまいます。
そのため、今回紹介した寸法を基準に、車椅子に乗った人が生活する空間のサイズを決めることが大切です。
バリアフリー住宅の新築に利用できる補助金・税控除
バリアフリー住宅を新築する際には、対象となる補助金がないか確認しましょう。
住宅のバリアフリー工事で思い浮かぶのが、介護保険による「高齢者住宅改修費用助成制度」ですよね。
しかし、こちらは既存住宅の改修が対象であり、新築住宅には使えません。
バリアフリー住宅を建てる際に利用できる可能性のある補助金制度は、以下のとおりです。
補助金
認定長期優良住宅の場合は100万円/戸、ZEHは80万円/戸が支給されます。
「各自治体の補助金」
多世帯同居に対応した住宅に一定額の補助金を支給される可能性があります。
(詳しくは自治体担当部署へお問い合わせください)
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税控除
「住宅ローン減税」
認定長期優良住宅は「5,000 万円」、ZEH水準省エネ住宅は「4,500 万円」、省エネ基準適合住宅は「4,000 万円」を控除対象借入金額として、最長13年間の間、年末残高の0.7%分が所得税より控除されます。
詳しくは、建築会社へご相談ください。
ずっと快適に暮らせる住まいの新築・リノベーションは実績のある工務店・設計事務所に
後悔のない住まいづくりを実現させるためには、4つの要素を備える建設会社へ相談することがポイントです。
- 長寿命で高耐久な構造計画
- 機能的で無駄のない動線を踏まえた間取り計画
- 温もりや居心地の良さを感じられる内装デザイン
- 住む人の健康を維持するための材料・設備選び
その全てを兼ね備えた住宅づくりは、設計事務所の設計力だけでも工務店の施工力だけでも叶いません。
「長く安心して住み続けられる住宅にしたい」という方は、丁寧に要望に耳を傾け、専門的な知識を踏まえたプランを提案してくれる設計者や施工会社に相談しましょう。
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蓮見工務店の家づくりへの想い
私たち蓮見工務店は、「工務店」+「設計事務所」ならではの手作りの家づくりときめ細かいアフターメンテナンス、そして設計事務所として培ってきたデザイン性、高性能な家を提供させていただきます。
「熱を集め、移し、蓄える」
「風を通し、涼を採り、熱を排出する」
「直接的な日射を避ける」
「断熱・気密性を高める」
などのパッシブデザインも積極的に取り入れ、今まで多くの雑誌にも掲載していただきました。
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