常に快適な環境が調えられている家であること
家族構成や家族の暮らし方、価値観、好み、新しい家への希望とは別に、暮らしやすい家にするためには、必ず備えておきたい条件の一つは家の中の環境です。季節の変化に応じて、最小限の冷暖房で、常に最適な室温と湿度が調えられる住宅性能は、健康で暮らしやすい家を実現する上で、欠かせない条件です。具体的に必要な要素について考えていきましょう。
季節に応じた室温を調えられる
高価な設備を備え、多くのエネルギーを使えば、住宅性能が低い家であっても、室温は調えられるかもしれません。しかし毎月、膨大な光熱費と、大量のCO2が発生してしまいます。地球環境に負荷をかけず、最小限の冷暖房で最適な室温を調える為には、まずは断熱性と気密性を上げ、日射熱の活用と遮蔽をコントロールし、適切な換気計画による湿気の制御が大切です。この4つの要素が調えられている住宅は、家の中の温度差が少なく、快適で健康的な暮らしができ、環境への負荷を最小限にできる家です。比較的温暖な関東地方では、冷暖房をしなくても、快適に過ごせる期間が長くなるので、より光熱費を節約でき、CO2排出も削減できます。
30年後のカーボンニュートラルの社会に、エネルギーをジャブジャブ使うような住まいは、社会の負債となります。次の世代を担う子供たちの負担とならない家づくり前提に、心地よい暮らしのあり方を考えましょう。
ここで押さえておきたいポイントは、季節に応じた室温を調える方法です。近年、国を挙げて省エネ住宅への取り組みが進められています。その為、省エネ住宅に関する情報もあちこちで見たり、聞いたりされること思います。長期優良住宅の断熱基準?ZEH?それ以外に、HEAT20というのもあるらしい…そのような状態になり、何が良いのかわからないと感じることもあるのではないでしょうか?
断熱性とは、外気に触れる屋根や壁、床など、家の外側の部分(外皮)との熱の出入りの割合のことで、外皮平均熱貫流率(UA値)という数字で表されます。高断熱になるほど、熱の出入りの割合が減少し、UA値は下がります。
気密性とは、家の床面積に対する外皮の隙間の大きさの割合のことで、相当隙間面積(C値)という数字で表されます。気密性が高くなるほど、空気の出入りが少なくなるので熱の出入りも減少し安定した温熱環境が得られます。また、隙間風等による弊害もなくなりますので計画的な換気も可能になります。
埼玉県を含む首都圏(地域6)におけるUA値の基準は、長期優良住宅では0,87以下、ZEH基準では0,6以下です。HEAT20のG1では0,56以下、G2では0,46以下、G3では0,26以下となります。
したがって、より高い断熱性を求めるのであれば、長期優良住宅<ZEH<HEAT20・G1<G2<G3となっていきます。
ここで考えなくてはいけないことは、3つあります。ひとつは、基準にC値の基準は示されていませんが、気密性を伴わなければ、どんなに断熱性を高めても、季節に応じた最適な室温は調えられないということです。せっかく断熱性能を上げても、隙間風で室内の上下温度差が発生してしまうなどということがおこってしまいます。また、隙間の多い気密層から断熱層に入り込んだ湿気が内部結露して、建物の耐久性を損ねることもあります。断熱性と気密性は組み合わせて考える必要があります。
2つ目は、”UA値が良い事イコール暖かい家になる”ではないという事です。UA値を良くしようとすれば、熱の出入りが多い窓を少なくしがちです。極端に言えば窓が一切なければUA値はとても良くなります。しかし、日射熱の取得が期待できないので、自然室温(無暖房状態の室温)はとても低くなります。UA値に振り回されることなく、日射熱も考慮した自然室温のチェックと、自然室温で不足する分を補い快適に過ごすために必要な冷暖房エネルギー(冷暖房負荷)を最小にする計画が大切です。
3つ目は予算の問題です。求める基準が高くなればなるほど、断熱性と気密性を高める為の費用は嵩みます。断熱性と気密性が高く、最高の温熱環境が調ったとしても、その他の部分にかける費用が削られ過ぎてしまえば、暮らしやすい家とは言えなくなってしまいます。極端な例えですが、断熱性に費用をかけすぎてしまい、エアコンが買えなくなったとしたら、比較的温暖な関東地方でも、真冬や真夏は快適に過ごせません。何が何でも、最も高い断熱性を備えると考えるより、家づくり全体のバランスを考えた上で、採用する基準を決めることが大切です。
その助けとなる設計がパッシブデザインです。費用対効果の高い断熱材・気密材等の材料を使い、無料で無尽蔵の太陽や風の恵みを上手に取り込むパッシブデザインとの組み合わせ、そして暮らし方の工夫で、快適な室内環境が調えられます。深い軒や簾・アウターシェードなどで、夏は日射を遮蔽し、冬は家の奥まで届く陽射しで室内を暖ため、陽が落ちたらハニカムスクリーンや厚手のカーテンを閉じて暖かさを保つ工夫をします。
明るい家
日中は、家の中が明るいという環境も、その家に住む家族の心と身体の健康を守ります。照明をつけなくても、日常的な作業ができることはもちろん、太陽の光は健康への影響も与えます。朝日が睡眠のリズムが調えられるので、規則正しい生活がしやすくなるとともに、精神が安定します。昼間でも薄暗い部屋で長期間過ごすと、精神に悪影響が出ることもあるようです。
参考サイト ウェザーニュース
家の中に十分な陽射しを採り入れる為には、周辺の環境に合わせた窓の配置、吹き抜けなどの間取りの工夫で、家の中に十分な陽射しを採り入れることを計画する必要があります。
風が通りぬける家
家族と住宅の健康を守るためには、換気計画も大切です。日本は、高温多湿な気候なので、湿度の調整ができる家にしなければ、健康で快適に暮らせる家にはなりません。風通しの悪い家は、カビやダニが発生し、家族のアレルギーを発症させる恐れがあるだけではなく、多湿な環境は腐朽菌や白蟻の繁殖に適しており、家の寿命を縮めてしまうおそれがあります。
中間期の少なくなってしまった日本の気候では換気計画の中心は機械による計画換気になりますが、補助的要素として窓からの換気も有効です。間取りと窓の関係性に配慮し、窓から風を家の中に効率よく採り入れ、広い風の通り道を創るためには、地域の卓越風向にあった窓の位置やサイズ、開閉方法に加え、欄間や格子を採り入れるなど、間取りとの関係性も重要です。和風住宅に使われている光と風を通す欄間は、デザインを工夫すると、モダンな住宅にも調和し、風通しの良さを向上させます。
空気中に体に悪影響を与える化学物質が少ない家
私たちの周りには、実に多くの化学物質が存在します。その中は、接着剤や防カビ材、塗料に含まれるホルムアルデヒド、トルエン、キシレンなど化学物質もあります。これらの化学物質を含む建材の使われた家は、家の中の空気が汚染されます。化学物質によって空気が汚染されている家では、シックハウス症候群やアレルギーを発症する恐れがあります。
建築基準法によって、建築時にそれらの有害な化学物質の使用は規制されていますが、室内には家具や電化製品などもあり、完璧に排除することはできません。したがって、建材には自然素材を多く使い、化学物質を放出させないこと、敵切な換気計画によって、汚染された空気を室内に留めないことが重要です。
参考資料 身近な化学物質の環境リスク