在来工法で建てる木造の家の良さとは?
長く暮らせる家に、必要な条件を備えていることが、在来工法の家の良さです。長く暮らせるということは、住宅の耐久性が高いということだけではありません。工法に関わらず、耐久性と耐震性の高さは、すべての住宅の基本です。その前提として、どのような構造形式でも、どのような工法でも、構造計算によって得られた耐震等級が同じであれば、その建物は同様の耐震強度を持つという事です。鉄骨造だから強くて木造だと弱いなどという事ではないのです。それでは木造在来工法ならでの長く暮らせる家の要素とは何でしょうか?それは、間取りの自由度、外観や内装のテイストの柔軟さ、室内環境の調えやすさ、可変性の高さ、予算の幅の広さにあります。
間取りの自由度
在来工法は、木造軸組み工法という名の通り、木材で柱と梁を組み、構造部を造り上げる工法です。耐震上、必要な耐力壁は必要ですが、それ以外の間仕切壁の位置は、かなり自由に配置できます。耐力壁の強度や配置を工夫することで、大開口や吹き抜けなどの設計にすることもできます。
間取りの自由度の高さは、家族の生活スタイルに合わせた、無駄のない生活動線を実現します。その生活動線に合わせた位置に、適切なサイズの収納を造り、自然に片付く間取りが生まれます。
また、自由に窓や軒、間仕切壁の配置ができるということは、陽射しの明るさ暖かさと、風を採り入れ、夏は日射の遮蔽をして、無駄なエネルギーを使わず、最小限の冷暖房で、室内の環境を調える技術であるパッシブデザインとの相性もとても良いのです。
外観や内装のテイストの柔軟さ
在来工法の家は、打ちっぱなしコンクリートのような質感や、連続する曲線を持つ形状の家にはなりません。しかし、一般的な戸建て住宅に求められる、多くのテイストに対応する柔軟性を持っています。古くから続く、日本家屋の良さを集結した純和風住宅、モダンなデザインの住宅、ナチュラルな風合いの住宅など、住む人の好みに合わせて、外観や内装のデザインが生み出されます。
加えて、柱や梁を活かす構造美も、外観や内装のデザイン性を高めます。軒裏に使われる天然の木材、柱や梁の美しさを活かした真壁仕様などは、在来工法ならではの美しさです。これらの美しさは、和風住宅以外にも調和します。
室内環境の調えやすさ
理想の室内環境には、日当たりや風通しの良さ、季節に応じた過ごしやすい室温のほか、空気のきれいさや適切な湿度も重要です。近年では木造住宅に構造用集成材を使うケースも増えましたが、一方で柱や梁などの構造部や天井や壁、床などの内装にも、天然無垢の木材が使われた自然素材の家に対しても関心が寄せられています。
天然の木材には、調湿、断熱、蓄熱といった性質があり、弾力性も備えています。これらの性質は、樹が木材になる前、森で生きていた頃に、根から土中の水分や養分を吸い上げる際に使われていた管が、木材に多数の穴を持たせていることと、その中にたくさんの空気を含んでいることから生まれています。
参考資料 アナロジーを用いた木材の知識の理解 : 児童および初心者向けに書かれた木材に関する文献の分析
体感温度と室温の差を抑える
調湿性は、湿度が高い時期には、空気中の水分を吸収して爽やかな室内に、乾燥する時期には空気中に水分を放出して潤いのある室内にする働きをします。断熱・蓄熱性は、夏の日射熱や、冬の冷気の影響による壁や、床の表面温度の変化を緩やかにする働きをします。
この2つの働きは、家の中にいる家族の体感温度に関わってきます。体感温度は、湿度と、床や壁・天井などの表面温度に影響を受けるからです。室内の空気を適切な温度に調えても、空気中の水蒸気に含まれる熱エネルギーの影響を受け、湿度が高いと暑く感じたり、乾燥している寒く感じたりします。また放射熱の影響で、夏場に壁や天井の表面温度が高いと暑く感じ、逆に冬場には壁や床が冷たいと身体から放射熱を奪われ寒く感じてしまいます。調湿性、断熱・蓄熱性を持った木材で仕上られた家は、住むひとの体感温度を調える助けをします。
構造材としての木材の特徴
木材の調湿性・断熱性は構造体としても効果を発揮します。他の構造部材であるコンクリートや鉄骨に比べ、木材の断熱性はとても高い為、ヒートブリッジという室内外の熱の出入りの橋渡しをしてしまう心配がありません。鉄骨造では構造部材が外気に冷やされて壁内で結露が発生したり、壁が変色するなどの心配があります。RC造では、コンクリートの断熱性の低さによる壁の表面結露の問題、蓄熱容量がとても大きいので、冬場に暖房をつけても中々温まらない、夏場は太陽に熱せられたコンクリートの熱で夜になっても、いつまでも温度が下がらないといった弊害が起きてしまうこともあります。適度な調湿性、断熱・蓄熱性がある木材は構造材としてもバランスのとれた、とても優秀な素材なのです。
可変性の高さ
家を建てるタイミングにもよりますが、家が完成し、暮らし始めてから年月を経ていくうちには、暮らしや、家族構成に変化が訪れる時期がやってきます。そのような時に、ツーバイフォーなどの木造枠組壁工法では、新しい暮らしに合わせて、間取りを変更するのにかなりの制約があります。しかし、在来工法であれば、間仕切壁を増やしたり減らしたりして、間取りを変えるという小規模なリフォームから、構造部だけ残し、新たにつくり直すというスケルトンリフォームやリノベーションまで、豊富な選択肢があります。
2階建ての家を減築して夫婦だけで暮らすバリアフリーの平屋にする、子供家族と一緒に暮らす二世帯住宅に増築するなど、新たなステージを育む家に、建て替えよりも、費用を抑えて、生まれ変わらせることができます。
新築時の予算の幅が広い
在来工法の家は、木造住宅の中で最も多く建てられている為、建材の流通量が豊富です。その為、建材の選択肢が豊富で、選び方によって、予算には幅を持たせられます。最高級の建材を使って、贅沢な家を建てることもでき、首都圏の平均的な建築費の相場価格である3,772万円よりも、抑えた建築費の家を建てることもできます。
参考資料 2019年度 フラット35利用者調査|住宅金融支援機構
在来工法の家の全てが在来工法の良さを持っているの?
ツーバイフォーを代表とする枠組壁工法と比べると、間取りの自由度が高く、リフォームもしやすい、金物構法や伝統構法の家に比べると、建築費を抑えられるという良さがある在来工法ですが、枠組壁工法と金物構法という2つの工法に比べて注意すべき部分もあります。それは、在来工法の家には、住宅の質に大きな幅が出る可能性があるということです。
枠組壁工法も金物構法も、それぞれ独自の工法を使って住宅を建築します。構造用の規格材は、品質チェックがされた扱いやすい建材です。強度や乾燥の度合いにバラツキが少なく、一般的に構造計算もされています。大工の熟練度によって、仕上がりが左右されることもありません。
一方、在来工法でもエンジニアリングウッドと呼ばれる規格集成材が使われる事も多くなりましたが、木造の醍醐味ともいえる天然の木材を使う場合は、同じ1本の木から製材された木材であっても、強度や乾燥の度合いが異なるため、その材のクセや性格を見抜く洞察力と使いこなす技術力がが求められます。大工の腕は、一朝一夕に磨かれるものではなく、修練を重ねた結果、得られるものです。自然の材料を扱う以上、大工の技術力に依存せざるを得ないことも確かです。その意味では、依頼先の施工業者がどのような大工職人と仕事をしているかを確認するのも大切なことになります。
天然木材も機械乾燥された材料が大半となっており、含水率や強度を示すヤング係数が表示され、個々の材の偏差は小さくなってきています。
また、在来工法は建築基準法上は一般工法なので、構造計算による耐震強度を確認していない物件も存在します。構造関連図書の保存が義務化になりましたので、設計者に必ず確認しましょう。
在来工法は自由度が高い分、設計によっても住宅の質に大きな差が出ます。莫大な予算をかけ、優れた設計力と最高の技術、最高級の建材が組み合わされれば、素晴らしい家が生まれるでしょう。しかし、同じ建築費で家を建てた場合であっても、設計力と技術力の違い、施工者の家づくりの方針によって、完成する家には大きな差が出ます。断熱や耐震に対する考え方、予算の割り振りの仕方、家を建てようとしている家族への寄り添い方などへの違いが、家づくりを様々な方向に導いていくからです。
在来工法の良さが、十分に活かされる家になる場合もあれば、在来工法の良さが、活かされない家になってしまう場合もあります。木造住宅での家づくりを検討される際には、木造の家の良さを活かせる家づくりということを念頭において、計画を進めることが大切です。