耐震基準はいつから変わった?
日本では過去に多くの震災を経験してきました。そしてそれらの大地震が発生した時点では、地震に対しての知見が十分とはいえず、十分な耐震性能を備えていない多くの住宅が倒壊もしくは大破し、尊い人命が失われました。阪神・淡路大震災教訓情報資料集【02】人的被害を見ると、01) 震災による死亡者の9割以上は死亡推定時刻が当日6時までとなっており、ほとんどが即死状態だったとされている。02) 死因のほとんどは、家屋の倒壊や家具などの転倒による圧迫死だった。という調査報告がされています。
建物の倒壊によるものが原因である以外にも、震災のショックによる病気や、病院の停電により治療が中断され亡くなったというケースもありますが、圧倒的に住宅の耐震性の低さによる自宅での死亡が多いことが見て取れます。このような経験を基に、今後想定される大地震でも倒壊しない建物を建築する為、建築基準法は改訂され、耐震基準が高められています。
耐震基準は、建築基準法によって定められている耐震性能の基準です。高層ビルなどの大規模な建築物から、個人の戸建て住宅に至るまで、建物を建築する為には、耐震基準を満たしている必要があります。
耐震の基準は、大地震が発生する度にその経験を踏まえ、改正され続けていますが、大きく変化した時期は1978年の宮城県沖地震を受けて改正が行われた1981年です。いわゆる”新耐震基準”で、現在でもすべての建物に要求される基本的な耐震基準です。しかし、現実には、その基準だけでは十分ではない部分もありました。阪神淡路大震災での被害状況の分析をもとに、2000年に木造住宅の構造に対する大きな改正が行われ、「基礎形状」「柱頭、柱脚、筋交いの接合方法」「耐力壁をバランス計算して配置すること」などの事が細かく規定されました。
また、木造住宅などの小規模な建築物においては、耐震基準に関わる構造規定が確認申請の審査においては対象外とされいます(いわゆる”四号特例”)。そのため、木造住宅の耐震性能は設計者のスキルや良心に委ねられているといっても過言ではない状況です。公的機関でのチェック機能が果たされないので、施主はみずから設計者に対し、耐震性能に関して確認する事が大切です。細かいことは分からなくても、耐震に対しちゃんと検討しているかをチェックする姿勢を見せることが、設計者・施工者の手抜きへの抑止力となります。 ※2020年に建築士法が改正され、木造住宅などの四号建築物においても、構造に関する図面や計算書等の図書を15年間保存する事が義務付けされました。
参考サイト 内閣府防災情報のページ 阪神・淡路大震災教訓情報資料集【02】人的被害
耐震基準と耐震等級3の意味
一般の消費者にとって耐震基準の内容は理解が難しく、家づくりの際の知識としては活かせません。その為、家を建てようとする人が、住宅の構造に精通していなくても耐震の基準を判断できるよう、品確法における住宅性能表示制度により耐震等級が設けられています。
耐震等級の内容
耐震等級は3段階に分けられています。
耐震等級1
建築基準法で定められている耐震基準と同じ内容の基準です。住宅を建築する際の最低限の耐震性能を満たす等級です。
耐震等級2
建築基準法で定められている耐震基準より高い耐震性能を備えている住宅です。耐震等級 1の1.25倍の強度を備えており、国が定める長期優良住宅の認定要件となっています。
耐震等級3
耐震等級1の1.50倍の強度を備えた住宅に対する等級です。自治体が定める、災害発生時の救護活動・災害復興の拠点に要求される耐震性能であり、震度7の揺れが、立て続けに2回起こった熊本地震では、1度目は耐えたが2度目の地震で倒壊した住宅も多数あった中、等級3の住宅は2度の震度7に耐えていたことが、専門家の調査によって明らかになっています。
耐震等級を確認する手段としては、許容応力度計算などのような構造計算による場合と、品確法に規定される壁や床、基礎の強度、梁材の大きさの検定などだまざまな項目の確認による場合の2つの方法があります。どちらの計算方法を用いたとしても、正しく耐震等級1,2,3といえますが、許容応力度計算による検定の方がより厳しい結果となる傾向があります。大まかにいえば、品確法の等級2<許容応力度計算の等級2≦or≒品確法の等級3<許容応力度計算の等級3という感じでしょうか。いづれにしても、熊本の震災の知見より、上記の2つの方法のどちらかで計算された耐震等級3の住宅であれば、より安心安全の度合いが高いという事になります。それでは、許容応力度計算などの構造計算や品確法による確認といった計算とはいったいどのようなものなのでしょうか?
参考資料 新築住宅の住宅性能表示制度 住宅性能表示制度ガイド
■ 耐震性を考えるならRC造の家と思われる方は少なくありません。しかし木造住宅には耐震性も含め、間取りの自由度、木の家の心地良さなどたくさんの魅力があります。
コラム 在来工法の強み
住宅の耐震性能を確認する方法
構造の強度を確認する計算とは、地震や台風など受ける横揺れという水平力と、建物にかかる重さなどの鉛直力に対する建物の耐力を割り出す計算で、耐力壁の量とそのバランス、床の強度(床倍率)、各構造部材の接合部の検定、基礎の強度(形状や配筋計画)、柱・横架材の寸法の検定といった項目について検討する作業になります。
許容応力度計算に代表される構造計算は、すべての検定項目について、計算によりその安全性を確認するものであり、現況考えられる方法としては最も信頼性のおける計算方法といえます。ただし、簡単に手計算で算出できるものではなく、専門的知識と専用ソフトが必須であり、必然的に費用も嵩みます。
品確法による確認とは、検定項目は許容応力度計算と同様ですが、検定項目の中のいくつかに関しては、より簡易的な計算方法であったり、あらかじめ公益財団法人日本住宅・木材技術センターにより用意されている、スパン表というデフォルトの中から選択するというように、簡略化された方法を採用しながら建物の安全性を確認していく方法になります。ですので許容応力度計算などに比べると信頼性は劣りますが、より広くより安価で構造安全性を確認できるという意味で、その存在価値は大きいものがあります。
家族の暮らしの場となる住宅において、安心安全の礎となる耐震性能は家づくりの基本です。出来ることなら許容応力度計算などによる構造計算で、それが難しければ、品確法による耐震等級の検討を必ず行う事が大切になります。
■ 大開口は耐震性を低下させると考える人もいますが、構造計算を基に設計された家では、窓の自由度が上がります。窓は暮らしを豊かにします。
耐震等級3と耐震等級3相当という表現の違い
耐震等級3の住宅とは、構造計算や品確法により強度を確認された住宅になります。しかしながら、最近チラシなどで耐震等級3相当というふうに表現された住宅が散見されます。耐震等級3とは、先述の様々な項目について検定・計算して耐震強度3を確認した住宅になりますが、耐震等級3相当と表現される住宅は、検定項目のうちの耐震壁量のみが耐震等級3と同量に配されている建物も少なからず存在します。悪質な場合は同様のケースで相当という表現さえ付けない住宅も在るようです。
耐震等級3だから安心と鵜呑みにするのではなく、耐震等級3的な表現であっても、すべての検定項目が正確に確認されていない家があるということは知っておきましょう。希望する耐震強度をしっかりと設計者に伝えて、耐震等級の算定根拠を提示・説明してもらうことをお勧めいたします。
注文住宅では、断熱性、気密性も含め、住宅の性能は家を建てる家族が自由に決められます。そして耐震等級の算定は確実な耐震性を備えられる方法ではありますが、建築基準法の構造規定により求められている壁量計算等の確認より費用がかかります。法律に定められている建築基準法を満たしているから安心と考えず、設計・施工の依頼先に耐震性について十分な説明を受けることが大切です。
■ 長期優良住宅で求めている性能は決して十分なものではありません。将来を見据え、しっかりと性能基準を検討し、設定していく必要があります。