“四号特例縮小”が木造住宅にもたらす影響とは?概略から今後の動向について

皆さんは、「4号特例」というキーワードを聞いたことはありますか?これは、一般的な木造住宅などの比較的小規模な建築物において、建築基準法上の一部の規定に対する審査が、建築確認申請時に省略されるという特例です。実は、この特例が縮小される法案が国会に提出され、2025年には施行される予定です。一部では実質的な“廃止”という意見もあがっており、住宅業界で大きな話題となっています。

では、この特例が縮小されると、住宅を建てようと検討している方にとってどのような影響があるのでしょうか?今回は、「4号特例」の基礎知識から、改正内容、今後予測される木造住宅業界の動向について解説します。

 

「四号特例」とは?

まず前提として、日本国内で建築物を建てる場合には、建築基準法やその他の関連法令に則った設計によるものでなくてはなりません。それを確かめるのが建築確認審査で、建築物の新築や一定規模の増改築の際に、建築基準法等関係法令に適合しているかを、提出された設計図書で確認する作業を指します。建築物規模の大小に限らず(防火・準防火地域以外の10㎡以下の増築以外)、建築の際には必ず着工前に確認申請を行い、確認済証が下りなければ建築できません。無視すれば“違法建築物”となってしまいます。

関係法令に適合していることを審査する確認申請ですが、敷地や建物が一定の条件を満たしている(小規模木造建築物など)場合、確認審査項目(特に重要なのが構造強度に関する項目)が簡略化され、本来確認申請時に求められる資料のうち、審査対象外の資料(構造計算関連図書など)も添付不要となります。これがいわゆる「四号特例」です。建築基準法第六条の四(建築物の建築に関する確認の特例)に基づいて、一定の条件(最高高さ13m以下かつ、最高軒高9m以下かつ、地階を除く階数が2以下かつ、延床面積500㎡以下の木造建築物)を満たした建築物においては、建築確認審査が省略されるのです。

ここで確認しておきたいのは、「四号特例」は小規模の建築物において、構造規定等については建築士の責任において適切に計算・設計されることを前提に、確認申請時の審査を省略するというものです。ところが、一部の建築士や建築業者が都合よく曲解し、審査の省略イコール構造検討自体を省略して良いという解釈になってしまっている現状があります。

 

建築基準法令の規定を定めるものにおいては、建築士の技術水準、建築物の敷地、構造及び用途その他の事情を勘案して、建築士及び建築物の区分に応じ、建築主事の審査を要しないこととしても建築物の安全上、防火上及び衛生上支障がないと認められる規定を定めるものとする。

引用:e-GOV法令集|建築基準法 第六条の四(建築物の建築に関する確認の特例)

 

特例対象となる「四号建築物」の条件

では、具体的にはどのような建築物がこの「建築基準法第六条の四」に該当するのでしょうか?対象となる建築物は、一般的に「四号建築物」と言われ、建築基準法第6条(建築物の建築等に関する申請及び確認)第四号に該当する建築物を指し、その中でもあくまで建築士が設計した建物に限定されます。具体的には、以下のような建築物が特例対象です。

 

  • 建築士が設計をした建築物
  • 特殊建築物ではない(不特定多数の方が利用しない)建築物
  • 木造で二階以下の建築物
  • 延べ面積が500㎡以下の建築物
  • 高さが13m若しくは軒の高さが9m以下の建築物

 

つまり、一般的な木造住宅はほとんど特例対象になるということです。そのため木造住宅の多くは、建築基準法の構造関連の仕様規定である壁量計算等や性能規定である許容応力度計算などの、構造計算関連図書の添付が、現状では省略となっています。

2022年に「四号特例縮小法案」が国会に提出されて、2025年に施行されることが決まったため、施行後は一部の小規模建築物(木造平屋建、200㎡以下)を除き、すべての木造住宅において構造規定に関する審査もおこなわれる事となり、構造関連図書の添付も求められることになります。

 

施工事例

 

“四号特例縮小”までの経緯は?

建築基準法内で、四号特例が制定されてから現在に至るまで、様々な議論が繰り返されてきました。そこで、ここでは開始されてから今回の縮小に至った経緯を紹介します。

 

【1983年】
1981年に構造性能の強化を目的に新耐震基準を定めた法改正が行われる一方、その2年後の1983年には建築審査に関わる行政職員不足の解消や、効率的かつスムーズな審査及び建築着工を目的として、比較的審査効果の薄い「四号建築物」を対象に、審査項目を省略するという、いわゆる「四号特例」が開始されました。

【1998年】
「建築基準法」改正により、公的機関だけではなく指定民間機関でも建築確認審査ができるようになりました。これにより、審査が厳格・適正化され違反建築の減少に一定の効果が見られました。(1998年度・12,283件から2004年度・7,782件 ※国土交通省調べ)

しかし、一方で建築確認審査の結果に差が出たり忖度するケースも稀にみられ、2005年の耐震偽装問題の発覚を契機に、四号建築物に対する耐震状況実態調査が行われ、四号特例の都合よい解釈、誤解により壁量計算を行わず、耐震性能不足の木造住宅が多数確認されるという状況が発覚しました。

参考ページ 国土交通省|建築確認・検査制度等の総点検と再発防止策の検討

【2006年】
多数の新築分譲戸建住宅等で、壁量が不足していることが発覚したのを受けて、政府は2009年12月までにこの四号特例を廃止すると発表しました。

【2007年】
耐震偽装問題の対策として行われた2007年の確認申請の厳格化において、もろもろ準備不足、認知不足等により確認申請が下りない、着工戸数の激減から官製不況が起き、日本経済にも少なからぬ影響を及ぼしました。2年後に予定されている四号特例廃止による官製不況の再来への懸念、また一部の建築業者による四号特例廃止反対圧力などにより、平成22年(2010年)に四号特例廃止は見送りとなりました。

【2018年】
日本弁護士連合会が、特例対象建築物の安全性を確保する目的で、四号建築物に対する法規制の是正を求める意見書を国土交通省に提出しました。その主な内容は以下の通りです。

  • 四号建築物についても、それ以外の場合と同様に、構造計算を行うことを法的に義務付けるべきである。
  • 建物の構造的安全性を法的に確保するために、壁量計算の見直しや、建築物に応じた仕様を要求する技術的基準への改正(住宅品質確保促進法の規定に準ずる床倍率計算の導入等)、壁直下率・柱直下率、梁断面性状等に関する規定の新設をするべきである。
  • 建築確認手続及び中間検査・完了検査手続において、四号建築物も構造安全性の審査及び検査を行い、構造関係の設計図書の添付を義務付けるべきである。

参考ページ 日本弁護士連合会|「四号建築物に対する法規制の是正を求める意見書」

これによって、国会でも再び四号特例廃止に対する議論が再開したのです。

【2022年4月】
脱炭素化に関する法案と共に、四号特例縮小案が衆議院で可決され、今後は参議院で議論されたのちに法改正される見込みです。現時点では、2025年に実施することが目標とされているため、建築業界ではそれに向けた準備を進めています。

 

きっかけは震災と木造小規模建築物の変化

では、なぜ2018年から再び四号特例縮小の風潮が高まったのでしょうか?

その大きな要因は、東日本大震災以降に活動期に入ったといわれるほどの、度重なる地震被害の発生でしょう。特に2016年に発生した熊本地震の衝撃は大きく、震度7の地震が複数回起きた場合に、住民の生命と財産を守る為の耐震性能をどう確保していくかということは、喫緊の課題となったのです。本来備えるべき最低限の耐震性能の確保を、確認申請を通し全ての住宅で担保していく必要があるとの社会的要請が高まったのです。

また、近年問題視されている小規模住宅の構造も大きく関連しています。古来から建設されてきた木造建築ですが、人々のライフスタイルに合わせてその構造にも変化が生まれ始めました。

  • 木造住宅の高度化、断熱化が重視されて、建物そのものが重量化した
  • 大開口(窓など)を求める人が増えてきた
  • 間仕切り壁を極力なくした大空間が一般的になってきた …

これらの変化に伴い、必要な壁量を確保し辛い建物が増えてきました。このまま簡略化した建築確認審査を続ければ、最悪の場合倒壊事故などに繋がりかねないという懸念が生まれたのです。

この現状を踏まえて、2020年建築士法改正によって、建築士事務所は手がけた全ての建築物について、配置図・各階平面図・構造計算書などの保存が義務付けられました。

参考ページ 一般社団法人 日本建築士事務所協会連合会|改正建築士法

さらに、2025年から実施される四号特例縮小に伴い、「200㎡以下の木造平屋建て」以外のすべての建物が、今までは省略されていた壁量計算書や各種伏せ図、軸組図、基礎断面リストなどの構造図面一式も提出必要となります。ここで着目すべきなのが、最も一般的な木造二階建て住宅が対象外となることから、実質的には特例は廃止されたも同然といえるかもしれません。

 

施工事例

 

2025年以降はどうなる?

四号特例の縮小は、住宅業界への負担が増えることから、業界内では反対する意見がある一方で、賛成の意を唱える人も少なくありません。日経クロステックが建築実務関係者を対象に実施したアンケートによると、以下のような回答が得られています。

引用:日経XTECH|4号特例縮小の波紋

 

「建築確認審査に伴う業務が増える」
「各図面間での整合性確保がより必要となるため、設計図書作成にさらに時間がかかる」
「審査機関が伸びて引き渡しまでの期間も長くなってしまう」…

これらのネガティブな意見に対して、住む人にとってのメリットを唱える設計士も多数います。

「構造審査がより厳格化されるため、行政から耐震性の“お墨付き”がもらえる」
「より構造に考慮した設計がなされる」

つまり、住宅の安全性を高めるという根本的な目標を重視して、好意的に捉える人が多いのです。ただし、小規模な地場工務店や設計事務所では、人員配置やシステムの問題で対応しきれない可能性も否めませんが、それは住民の生命と財産を守る住宅の設計を担う資格が元々なかったとも言えるのです。また、今まで建築士任せになっていた構造設計も、行政のチェックが入ることで適正化され、工務店や設計事務所によってクオリティの差が明確になることも予想されます。

ここでより意識しなくてはいけなくなるのが、“設計事務所・工務店選び”になります。常に地震の脅威に晒されている日本の住宅にとっては、法令を遵守した上で、明確に性能を提示した安全安心な住宅を提供することは重要なポイントになります。これからは、構造と向き合わずデザインやコストばかりを重視してきた工務店・設計事務所が淘汰されて、より住む人に寄り添った会社が増えることを願うばかりです。

 

施工事例

 

蓮見工務店の家づくりへの想い

注文住宅,家づくり,設計

私たち蓮見工務店は、「工務店」+「設計事務所」ならではの
手作りの家づくりときめ細かいアフターメンテナンス、
そして設計事務所として培ってきた
デザイン性、高性能な家を提供させていただきます。

「熱を集め、移し、蓄える」

「風を通し、涼を採り、熱を排出する」

「直接的な日射を避ける」 「断熱・気密性を高める」

などのパッシブデザインも積極的に取り入れ、
今まで多くの雑誌にも掲載していただきました。

快適で心地よい暮らしは、設計、性能、見た目のデザインなど、
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そして、経験豊富な職人の手によってカタチになるのです。
私たち蓮見工務店は、それらすべてにこだわり、
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ご希望などございましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。

監修者情報

蓮見幸男

蓮見幸男

住まいの知恵袋、家づくり問題解決仕事人

住宅に関するさまざまな事柄(耐震・温熱・耐久性など)を計算やシミュレーションにより可能な限り〝見える化"し、安心・快適な唯一無二の住まいをリーズナブルにお届けしたいと考えています。

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