話題の“付加断熱”は果たしていいのか?メリット・デメリットを徹底解説
最近は省エネ志向の方が増えたこともあり、“高気密高断熱住宅”がもはやスタンダードになりつつあります。
しかし、一口に断熱工法と言っても、「充填断熱」「外張り断熱」そのハイブリッド的な「付加断熱」といった、いくつかの工法があります。
その中でも、いま関心を集めているのが「付加断熱」です。
2022年度に断熱等級の更新があり、今までの最高等級4の上位に等級5が新設されました。そして矢継ぎ早に、この10月には等級6と等級7が新設されたのです。その断熱性は等級4に対して、等級5で約1.5倍、等級6で約2倍、等級7で約3倍もの高性能なります。その等級6や等級7の性能を確保する為の工法として、「付加断熱」が注目されるようになったのです。
しかし、比較的温暖な地域とされるⅤ地域やⅥ地域(関東や近畿など多くの人が居住している地域)では、まだ施工事例も少なく、一般の方の間では認知度は低く、詳細を知らない方も多いでしょう。
そこで、今回は「付加断熱」について、メリット・デメリットから気になる疑問まで丸ごと解説します。
環境配慮型住宅に興味のある方は、ぜひ参考にしてください。
そもそも“住宅の断熱”とはどのような方法がある?
断熱を考える時に、蓄熱量の大きなものの存在がその効果に大きな影響を及ぼします。コンクリートや石などは木材などに比べ、とても多くの熱を吸収し蓄える能力があります。コンクリートや石の壁の外側に断熱材を設置すれば、外部からの影響が少なく、窓から入ってきた熱も蓄熱量の大きな壁が吸収してくれるので、室内温度はとても安定し、快適な環境が整い易くなります。逆に内側に断熱材を設置すると、夏場は昼間にコンクリートの壁が日射熱を蓄えてしまい、夜になってもいつまでもその熱を放射し続け、冬は夜間にキンキンに冷やされて、日中でも室内の放射熱を奪い続けることで、室内の温熱環境は非常に厳しいものになりがちです。
そこで、鉄筋コンクリート造や石の組積造の建物の場合、コンクリートや石の構造体の内側に断熱材を設置するのを「内断熱工法」、外側に設置する場合を「外断熱工法」と呼んで区別します。一方で木造や鉄骨造では、構造体に大きな蓄熱量は無く蓄熱による温熱環境への影響は微小なので、単純に工法の違いとして、壁や床、天井の架構の中に断熱材を仕込む「充填断熱工法」、外部に面する壁や屋根を外側から包むように断熱材を設える「外張り断熱工法」、というふうに区別します。「外張り断熱」と「外断熱」を混同して、外断熱のメリットを木造の外張り断熱でも得られるような記述も見かけますが、その効能は似て非なるものです。
さて、今回のテーマの「付加断熱」は「充填断熱」と「外張り断熱」の〝いいとこどり〟的な工法で、温暖地域においても比較的最近、環境的配慮型住宅の需要が増えていく中で取り入れられ始めた断熱工法です。
従来の木造住宅は、「充填断熱」もしくは「外張断熱」が主流で、ハウスメーカーや工務店は予算や建物の形状、施工性によってこの2つを使い分けていました。
では、それぞれの工法について詳しく解説します。
充填断熱
(引用:硝子繊維協会|充填断熱施工マニュアル)
こちらは、最も歴史の長い断熱工法で、天井・壁・床の木組の間に断熱材を充填する方法です。
現在でも最も一般的な工法で、多くの木造住宅に施工されています。
グラスウールやロックウール、セルロースファイバーなどの成形されていない繊維系断熱材が使われることが多く、それらの断熱材は透湿抵抗が低い為、内部結露を防止する目的で、室内側に防湿フィルム、屋外側に透湿防水シート張って断熱層をサンドイッチのようにするのが基本です。
(引用:JFEロックファイバー株式会社)
繊維系断熱材は、スタイロフォームなどのパネル型断熱材とは異なり、複雑な形状の場所や狭い場所にも充填しやすい点がメリットです。
ただし、断熱材自体にパネル型のような気密性はないので、別途防湿フィルムの施工が必須になります。
また、柱や梁といった構造材や間柱などの副資材が、外壁面の約2割ほどを占めますが、そこには断熱材を充填出来ないので、その部分が熱橋(ヒートブリッジ)となって、断熱性能の低下や表面温度の不均一状態を招くこともあります。
熱の伝わり易さ(熱伝導率)は、グラスウールなどの断熱材に比べ、木材は凡そ5倍~10倍になります。鉄骨造の場合の影響はより大きく、鋼材の熱伝導率は断熱材の約1000倍にもなります。
外張断熱
(引用:硝子繊維協会|外張り断熱施工マニュアル)
外張り断熱は、その名の通り外部に面する部分(外皮)を外側から包み込むように断熱材を施工する方法です。
一般的に成形型の発砲系断熱パネルを用いることが多いため、材料費が繊維系断熱材を用いる充填断熱と比べると少々割高です。繊維系のパネルを用いることもありますが、その場合は補強材としての木材や金具の施工が必要になります。また断熱材の厚さにもよりますが、等級6以上の性能を確保しようとすると50㎜を超える厚さの断熱材が必要で、窓サッシの設置のための下地材など、充填断熱にくらべてどうしても費用は嵩みます。
一方で、柱などで分断されることがないため、充填断熱の弱点であるヒートブリッジの問題がないため、平均した温熱環境を確保しやすいメリットもあります。
また、発泡系断熱パネルは透湿抵抗の高いものが多く、防湿シートが省略出来たり、施工上気密性能が確保し易いといったことも、この工法のメリットです。
内断熱・外断熱の長所を生かした“付加断熱”
日本の木造住宅に古くから施工されてきた“充填断熱”、その欠点をカバーする“外張断熱”、双方のメリットを取り入れる形で生み出されたのが“付加断熱”です。
付加断熱は、充填断熱と、外張り断熱のハイブリット工法で、高い断熱性を保てるため、北海道などの寒冷地を中心に多く取り入れられています。
(引用:硝子繊維協会|グラスウール付加断熱施工マニュアル ※断熱材部分に色付け)
高い断熱性を確保できるポイントは、ずばり「熱損失を抑える」から。
熱損失とは、室内温が外気温の影響を受けて放熱しまうことをいい、その指標が熱損失係数(Q値)です。
熱損失係数(Q値・W/㎡K)= 建物からの放熱量(部位ごとの放熱量合計・W/K)/ 延床面積(㎡)
Q値は母数が延床面積なので、建物の大きさに対して熱損失量のイメージがしやすいことと、換気による熱損失も考慮されるので、生活の実態としての
熱損失量を推測しやすいメリットがあります。
一方で同じ床面積でも、真四角に近いものが有利になり凹凸の多い形状だと不利になるなど、建物の形状によってその数値が左右されるので、壁や天井
などそのものの断熱性能の比較には不向きという傾向があります。
そこで現在一般的に使われている指標が、外皮平均熱貫流率(UA値)になります。
外皮平均熱貫流率(UA値・W/㎡K)= 外壁、屋根(天井)、床(基礎)、開口部からの熱損失(外皮からの熱損失量の合計・W/K / 外皮面積(㎡)
このQ値やUA値が低いほど、室内の冷暖房を外に逃さず、逆に外気温の影響も受けにくいということになります。
木造住宅では、従来の充填断熱もしくは外張断熱の二者択一だと断熱層の厚さに限界があり、これからの高性能化に対して対応できなくなってきます。
付加断熱の場合は、二重の断熱材により断熱層の厚みの選択幅が広がり熱橋対策にも効果があるので、高い断熱性が確保できるのです。
デメリットは?
高い断熱性を担保できる「付加断熱」ですが、決していいことばかりではありません。
主なデメリットとして挙げられるのは、以下の5点です。
- 施工コスト・材料コストが割高
- 壁厚が大きくなる
- 外装材の選択肢が少なくなる
- 複雑な形状の住宅には施工できない
- どの会社でも施工できる訳ではない
では、それぞれ詳しく見ていきましょう。
その① 高コストになる
単純に使用する断熱材が増えますし、その分施工手間もかかるため、内断熱・外断熱と比べると総コストがかかってしまいます。
ハウスメーカーによっては、「住み始めてから電気代が削減できるのでお得」というような宣伝をしているのも見かけますが、初期投資費用を考えるとそれにはかなりの年数を要するでしょう。
ただし、スクラップ&ビルドの社会からストック型の社会へと変換する中で、住宅の寿命も2世代50~60年というのが当たり前になるはずです。高性能で省エネルギーの建物を長く使っていくことが、コストパフォーマンスが高く、ひいては地球環境に優しい暮らし方となるのです。
また、最小限の空調コストで室内を心地よい温熱環境に保ちやすくなるため、健康面やメンタル面でのメリットがあることを忘れてはいけません。
健康面での改善は、確実に医療費の削減にもつながりますので、国も『スマートウェルネス住宅研究開発コンソーシアム』において、住宅の温熱環境の健康への影響について、世界にも類を見ないレベルでのエビデンスを積み上げているところです。
付加断熱を検討する際は、コスト重視か居心地重視かという単純な選択ではなく、長期的な視点でその真価を検討する必要があります。
その② 壁厚が大きい
付加断熱は、壁の外側にもう一層断熱層を設けるため、壁厚が大きくなるのは致し方ありません。
壁厚が大きくなるということは、微々たるものではありますが屋外側に数センチ出っ張りますので、隣地との間隔がひと回り狭くなるとくことです。
そのため、狭小住宅で導入すると、間取りに影響することもあります。
断熱性をあまりに優先しすぎてしまうと、日常生活に支障をきたす可能性もあるため、必ず平面プランニングと併せて検討しましょう。
その③ 外装材が限定される
間柱(壁の構造体)の外側に断熱層を設ける外張断熱や付加断熱の場合、どうしても外装材を支える下地までの距離が長くなってしまいます。
そのため、窯業系サイディングやタイル壁、モルタル壁など、重量のある材料にはあまり適しません。
通常時は良いものの、地震の際にズレや落下の、ひび割れなどの原因になるからです。
外張断熱・付加断熱を取り入れる際は、外壁下地への負荷が少ない金属系サイディングや羽目板など軽量な外装材を選びましょう。
最近では、付加断熱材のEPS(発泡スチロール)に直接仕上材を塗布できる工法も開発されていますので、そのあたりに詳しい工務店に相談してみるのも良いでしょう。
その④ 複雑な形状には施工できない
壁厚が大きくなってしまう付加断熱の場合、いくら施工技術が高くても、曲面や複雑な形状の壁には物理的に施工がむいていません。
そのような部位に無理矢理施工すれば、断熱層に隙間ができるなど、施工不良の原因となりかねません。
そのため、デザイン重視の住宅の場合は、充填断熱を中心に断熱計画を立てるのがおすすめです。
その⑤ どの会社でも施工できる訳ではない
付加断熱は、断熱層の施工に際して、一定のノウハウや経験が必要になります。
とくに防湿・結露防止に関しては、断面構成が多岐にわたる為、しっかりと事前に検討しておく必要があります。
また、長いビスで断熱材と外装材を固定しなくてはいけないため、確かな施工技術と精度が要求されます。
つまり、どこの設計事務所・工務店でも安心して任せられる、というわけではないのです。
付加断熱を検討する際は、必ずその会社の実績を確認しましょう。
「結露」がひどくなるって本当?
付加断熱について調べていると、「結露がひどくなる」というようなネガティブなキーワードを見かけます。
確かに、付加断熱の施工中に大量の結露が発生したという事例も決して少なくありません。
(参考ページ:日経XTECH|付加断熱の施工中に大量結露)
しかし、その原因は付加断熱の構造ではなく、あくまで建築会社の施工スキルや知識不足の問題にあります。
建設途中に雨が降り、木材が湿った状態のまま付加断熱工事をした場合、室内側を防湿シートで覆い屋外側に設置する付加断熱材を透湿抵抗の高いXPS(ポリスチレンフォーム)などで施工すると、間違いなく壁内などに湿気がこもって結露の原因となるでしょう。
また、一見乾いた状態に見えても、完全に元の含水率にまで戻らなければ、必ず「蒸し返し現象」が起きてしまいます。
蒸し返し現象とは、外壁面が日射によって高温になると壁体内の空気の相対湿度が下がり、木材が含んでいた水分を壁体内の空気に放湿し均衡を保とうとします。その水蒸気が室内側の冷房された壁の裏面付近で露点温度まで冷やされ、結露が発生するという現象です。
このように、いくら正しい材料で正しい施工をしていても、建築会社がその本質を深く理解していなけれが結露を避けて通ることはできません。
リフォームでの施工はできる?
結論から言いますと、付加断熱をリフォームで既存住宅に施工することは“理論上”可能です。
ただし、これにはいくつかの注意点があります。
- 既存部分も含めた断熱層全体で、結露の検討をする必要がある。
- 壁の断熱性が上がった分、窓やドアといった開口部など、断熱性能の低い部分に結露が集中する。
- 外壁面に取り付けられたものを全て一度取り外さなくてはいけないため、時間と費用がかかる。
- 開口部周りがうまく納まらない場合もあり、雨漏りの原因になるケースも。
ただし、付加断熱材の透湿性能によっては、充填断熱をやりかえる場合とは異なり、室内の壁を解体する工事は必要ない場合もあり、そのケースであれば比較的今までの生活を送りながらの断熱改修が可能な点は大きなメリットと言えます。
まとめ
付加断熱は、過酷な環境にある寒冷地を中心に施工実績が増えています。
しかし、関東など通年の温度差が比較的小さいエリアにおいても、周辺環境で有効に日射熱を採り入れられないとか、エネルギーコストの上昇でこれから十分に冷暖房費をかけられるか心配と思う方は、決して少なくないはずです。
自宅をより快適に且つ環境に優しい住宅にしたい方にとって、「付加断熱」の導入は検討の価値があるでしょう。
ただし、その際には必ず知識豊富な設計事務所や建設会社に相談することがとても重要です。
まずは、その点について十分に確認して会社選びをしてください。
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「風を通し、涼を採り、熱を排出する」
「直接的な日射を避ける」 「断熱・気密性を高める」
などのパッシブデザインも積極的に取り入れ、
今まで多くの雑誌にも掲載していただきました。
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